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銃規制の400年:なぜうまく行かないのか? Four Hundred Years of Gun Control: Why Isn't It Working? by Howard Nemerov

アメリカでは年に一度か二度、銃の乱射事件が起こる印象があります。日本に住んでいる私からすると、アメリカで銃の規制をなぜもっと厳しく行わないのかと疑問に思っていました。ずっと昔にマイケル・ムーア監督の「ボウリング・フォー・コロンバイン」とかを観た印象もあって、全米ライフル協会って政治力がすごいのかなあとも思っていました。

その全米ライフル協会関係では色んな機関紙を発行しているようで、他にも銃規制に反対する方向で様々な書籍が出ています。アマゾンのレビューでの評価も高かったので本書を購入してみました。

銃規制の400年という題名ではありますが、この本は主に1990年代から2005年までのデータ(本書の発行は2008年)を用いて、銃を規制すると犯罪の発生に対してどういう影響があるのかを扱っています。

最初に結論から述べてしまえば、銃を規制すると犯罪率、特に強盗や殺人などの重犯罪の率は1割から3割上昇します。1997年に全ての拳銃の所持を禁じたイギリスや1996年に火器の所持に厳しい制限を設けたオーストラリア、逆にアメリカで拳銃の所持に対する規制を緩めた各州を比較すると市民が銃を持っていた方が犯罪率が下がるという結論が得られます。

個人的にはにわかに信じられないわけですが、この理由は銃の所持のされ方にあります。銃規制が行われる場合、規制に従うのは主に法に従う普通の人々です。犯罪傾向にある人や犯罪組織の人は法に従ったりしませんから、銃規制は犯罪を行おうとする人にとって有利に働きます(日本的な感覚では犯罪組織も含めて銃規制しろよと思うのですが、アメリカではこれはなかなか難しい。禁酒法時代や麻薬の取り締まりでも苦労していますし、そもそも無許可で銃を持つのは銃の許可法があっても違法です)。では警察があてになるのかというとそうでもありません。犯罪が起こる現場に警察が居合わせることはあまりありませんし、犯罪が起こった後でも重犯罪に対する検挙率は2割程度です。逆に銃の携行を許可する法律のもとでは、拳銃を所持しようとする人に対して犯罪歴や借金の滞納がないかどうかなど、身元に対する照会が行われます。講習や訓練も義務付けられます。実際、正当に銃を保持している人の犯罪率は全体の平均から比べると極端に低くなります。つまるところ、拳銃の携行許可によって私服の警官か自警団を養成しているような感じになるわけです。所持許可はそれなりに面倒なので、住民の1%ほどしか申請しないようですが、それでも犯罪抑止にかなりの効果があります。

家庭に置かれている銃をいたずらして子供が事故死したりする痛ましい事件も起こりますが、年に千件を越える重犯罪の犯罪率を下げるほうがより社会の利益になるし、自動車の事故を防ぐのと同様にその手の事故は家庭内での銃の保管をきちんとすることで防げると著者は言います。実際に事故は管理の過失によるところが大きいのも事実です。

銃規制派の人は銃が社会にあると銃による死者が増えると主張しますが、これにも著者は詳細にデータを挙げて反論しています。規制派のデータは自殺や犯罪者が銃を使用する場合などを全部一緒にして論じています。自殺する人は死にたければ銃がなくても他の手段を使うでしょうし、犯罪者が持っている銃は単なる銃規制では奪うことが出来ません。データを丹念に見ていくと強盗や殺人に拳銃所持許可者が巻き込まれて撃ち合いになった場合でも実際に襲撃者を撃ち殺しちゃったりするのは1割ほどで、犯罪率の低下とも合わせて考えると拳銃の所持許可を与えている州の方がより安全です。

国連は世界的に銃規制を進めようと勧告を出したりしているそうですが、これも著者は気に入らないらしく色々と反論しています。ヒューマンライツウォッチなどによると国連の加盟国のうち、市民的自由がないとされる国が過半数を占めるそうです。国連加盟国をその市民的自由の大きさによって4つに分け、国民一人当たりの銃の所持数を比べると銃の所持数の多いグループが市民的自由が高いグループであることがわかります。専制的な政治を行っている国は一般の国民に銃の所持を認めたりはしませんからね。そんなことをしたらたちまち反乱が起こってしまいます。アメリカの歴史でも銃の規制は最初はアメリカ原住民に、次は黒人に対して行われました。いずれも反乱を防ぐのが目的でした。国民が自己を防衛し、また政府の圧政にたいして抵抗するために銃は必要で、国連が銃規制を進めようとするのも、その過半を占める専制的な国家が国民の抵抗する力を奪おうとする試みじゃないかというわけです。

全米ライフル協会なんかのロビー力についても一章が割かれています。確かに銃規制だけを訴える団体と銃賛成派の団体だけを比べると銃賛成派の団体の方が献金の額は数倍以上に大きくなります。ですが、銃規制は他の多くの政治的問題と関連していて、銃規制派は大体同時に民主党よりです。で、民主党の銃規制派に弁護士団体から献金された額を銃賛成派の献金額と比べると弁護士団体の献金額の方が遥かに多いことがわかります。考えてみるとクリントン大統領やオバマ大統領は弁護士出身ですし、流石に弁護士業界と比べると全米ライフル協会はかすんで見える気がします。

私の個人的な考えではそれでも銃ってないほうがいいんじゃないかと思うのですが、それは単純な銃規制では達成できないと思うようになりました。北風と太陽のお話ではありませんが、国の経済を良くしたり、警察力を強化したりするなど犯罪率を下げるなど国家や社会に対する信頼を深め、銃を奪うのではなく、銃がなくても暮らしやすいと感じる社会を作ることが先決なのだろうと感じました。ブラジルで銃規制についての国民投票が行われたとき、投票直前までは規制派のほうが優勢だったのですが、テレビ討論で銃規制反対派が「あなたは守られていると感じているか?政府はあなたを守っているのか?」と問いかけた時、それに対する反応は圧倒的な「ノー」で、国民投票は銃規制反対派が勝利した、といったことがあったそうです。

アメリカの銃所持許可法のある州に行く時には、合法的に銃を所持している人のそばにいるほうが安全そうではあります。しかしながらもし揉め事が起こりそうなら、いつ撃ち合いになって流れ弾が飛んでこないとも限らないので、急いで逃げたほうがいいと痛切に感じたことも最後に付け加えたいと思います。